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「障害があるから」と諦める前に相談を。オートガレージ江下にインタビュー

更新

2023/06/14

公開

2023/06/14

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「オートガレージ江下」は、佐賀県佐賀市に自社工場を完備するカーライフサポート店です。車検や鈑金塗装、新車・中古車の販売に加え、キャンピングカーや介護福祉車両の修理・改造も手がけています。

今回はオートガレージ江下代表の江下真也さんに、キャンピングカーや介護福祉車両のサービスについてお話を伺いました。

目次

    1.整備から鈑金塗装、各種車両の改造サービスへ

    ― 本日はよろしくお願いします。まず御社の事業内容を教えてください。

    江下さん:当社は自動車の車検、板金塗装、修理、車検整備、新車・中古車販売、カスタム系エアロパーツ改造など、車に関わるさまざまなサービスを行っております。

    もともとは自動車整備士だった父が勤め先を代表から受け継ぎ、その後佐賀県佐賀市に自宅と店を移して、現在の「オートガレージ江下」を始めました。

    私自身はコンピュータープログラミングや電子工作分野の出身で、トヨタ自動車で整備士の仕事を学んでから、板金塗装業界で技術を習得したのち入社しました。

    現在はキャンピングカーの改造・修理や介護福祉車両の販売、修理、改造なども行っており、幅広くご相談を承っています。

    2.趣味のつながりが仕事に生きたキャンピングカー改造

    ― キャンピングカーの改造・修理について教えてください。

    江下さん:キャンピングカーに関してはエアコン設備の追加など、すでに使っているキャンピングカーに手を加える内容が多いです。

    20代前半頃、今で言う車中泊ができる車を自作し、初日の出やハウステンボスの花火大会を見に行っていました。

    仕事のきっかけになったのは、当時、キャンピングカーオーナーが集まるWebサイトを見つけてオフ会に参加させてもらったことです。

    さまざまなオーナーさんから話を聞いて「キャンピングトレーラー」の存在を知りました。普通乗用車の後ろにつなげ、引っ張って移動するタイプのキャンピングカーです。

    そこからキャンピングトレーラーオーナーの団体ともつながり、それ自体にはエンジンがつかないキャンピングトレーラーなら当時の自分の予算でも手が届くということで購入しました。

    自分のキャンピングトレーラーを改造するうちに「これも仕事につながる」と思い、改造や修理の依頼を受けるようになったのです。

    ― 例えばどのようなご依頼があるのでしょうか。

    江下さん:暖房は標準装備として付くことが多いのに対して、キャンピングカーにはクーラーは付いてない場合がよくあります。付いていても「ルーフエアコン」という海外仕様のクーラーが一般的です。

    当時のルーフエアコンは日本の家庭用エアコンのように動作音が静かではないですし、細やかな温度調整もできません。やはり皆さん快適性を望まれるので、屋内に取り付ける家庭用エアコンを付けてもらえないか?というご依頼が多いです。

    キャンピングカー内で使う電気の蓄電量を増やすご依頼もあります。照明やテレビに使う自動車用の鉛バッテリーが一般的なのですが、それだと貯められる電気の容量が足りません。そのため、走行用のリチウムイオンバッテリーを使って蓄電量を増やすことがあります。

    あとは、修理・維持のご相談を受けることもあります。キャンピングカーは基本的に輸入車が多く、国産であっても輸入部品を使っていることが多いため、ほかの一般的な修理工場だと対応できないことが多いのです。

    3.修理・改造もできる「介護福祉車両」ノウハウを

    ― 介護福祉車両の改造については、どのような経緯で始められたのでしょうか?

    江下さん:介護福祉車両の改造という分野を知ったのは、自動車整備・板金塗装以外にも技術を増やしていこうと考えていた時期でした。

    「介護福祉車両専門店」の看板を見かけることが増えた一方、中古車販売のみのお店が多い印象を受けたので、当店だったら修理・改造もできるのではないかと思ったのです。北九州にある改造専門店に直接行き、話を伺いました。技術面も教えていただきました。

    ― 介護福祉車両にはどのような種類があるのでしょうか。

    江下さん:大きく分けると2つあります。ひとつは「自分運転系」とよばれる、障害者の方が運転される車作りです。もうひとつは介護施設が使うようなタイプで、車椅子を車の後ろから載せるなどのサポートをする車作りです。当店は両方手がけています。

    後者の分野にあたる車両は自動車メーカーさんが作っていることが比較的多く、バックゲートを開けるとスロープになっていて車椅子を乗せられたり、リフトを使って車椅子を取り込めたりする車が一般的です。

    改造のご依頼としては、現在乗られているお気に入りの車に、初期設定では搭載されていない装置を付けたいという内容がよくあります。

    修理のご相談もありますね。購入元のディーラーさんは介護福祉車両の改造や修理のノウハウがなく、修理を依頼しても断られてしまうようです。

    ― 障害を持つ方がご自身で運転される車については、どのような改造事例がありますか?

    江下さん:大きく3つに分かれます。まず車椅子ユーザーで下半身麻痺がある方の場合は、手動運転装置が必要です。左手でアクセルとブレーキを使い、右手でハンドルを回す仕様に改造します。

    右半身麻痺の場合は、ブレーキとアクセルを左足で操作する必要がありますので、ブレーキの左にもう一つペダルを付けてアクセルも左足で踏めるようにします。また、ハンドル操作も左手のみになりますので、ウインカーレバーを左側に延長移動させます。

    3つ目は、成長不全による低身長の方向けの改造です。足が届かないため、アクセル・ブレーキペダルを足が届く位置まで伸ばします。座面もクッションで高くして調整します。

    4.ユーザーの体に合わせ、細かく調整する車作り

    ― 介護福祉車両を作る流れについても教えてください。

    江下さん:ユーザーさんの体の状態を考慮して、車両の選定から関わり、どこにどのような部品をつけるか、どのような作り方をするのかを説明させていただきます。

    車椅子から車に乗り移るために、何センチの高低差があるのかを確認し、必要に応じて「サイドサポートシート」という一時的に腰かけるための場所を作ります。それも高さ確認が必要ですし、車椅子を車に収納する装備も必要ですので、ユーザーさんとは細かな打ち合わせをたくさんしていくことになりますね。

    ちなみに健常者が想像する下半身麻痺と当事者の下半身麻痺の実情は大きく異なります。下半身麻痺というと健常者は「座った状態で太ももを手で持ち上げる」だけで車に乗り込めると想像すると思いますが、実際はそう簡単にいきません。

    下半身が麻痺しているということは、足首もだらりと下に伸びきってしまいますので、足の甲が水平、歩くときのような状態にはならないのです。こうした実情は、実際に障害がある方と接していないとわからないことだなと感じます。

    5.身体障害者専用の教習車レンタルも

    ― 障害がある方専用の教習車も手がけられたそうですね。

    江下さん:はい、教習車として公安委員会や自動車学校の規定を満たし、かつ身体障害のある方が使える車両をレンタカーとして自動車学校に貸し出しています。

    介護福祉車両を扱い始めて数年した頃、警察からのご相談がきっかけでした。佐賀県内の自動車学校で身体障害者が使える教習車が一台もないというお話だったのです。

    過去には、佐賀県が県内3ヶ所の自動車学校に1台ずつ身体障害者用の教習車を提供したそうなのですが、使用頻度が少なかったために廃車になったとのことでした。

    そこで、介護福祉車両を理解していて改造もできる当店が教習車を所有し、その都度、教習生さんの体に合わせた改造を施して自動車学校に貸し出すという体制ができました。

    6.キャンピングカーは避難所にも。今後も新たな動きを学び続けたい

    ― 今後の目標や展望がありましたら、お聞かせください。

    江下さん:近年の自動車業界は動きが大きいため、ガソリン自動車と電気自動車の関係性のようにいつどのような変化があるかわかりません。これまでの仕事に加え、新しい情報についても引き続き学び続けていくつもりです。

    また、この仕事を通じて肢体不自由はもちろん視覚、聴覚、精神、発達、医療的ケア児など、さまざまな障害にかかわる団体とのお付き合いが生まれました。「佐賀の障がい福祉を考える会」という団体の共同代表メンバーとしても活動しています。私自身も「クローン病」という指定難病保有者です。

    キャンピングカーについては、過去に起きた大震災のことを考えると、趣味の延長線上というだけでなく、これからはひとつの避難所になるという考え方も加わるでしょう。

    例えば精神障害がある方だと、一般の災害避難所に入ることが難しい場合があります。でも自動車という普段乗り慣れている場所でなら、災害時に車中泊ができるかもしれません。

    佐賀県防災士会からお声がけがあり、その会の「車中泊部」開催の車中泊体験会向けに、私有車を避難所として使うための提案をさせていただいたこともあります。このように、今後も自分の経験や知識が役立てばうれしいですね。

    ― 最後に、読者へのメッセージをお願いします。

    江下さん:「障害を持っているから車の運転はできない」と先入観をお持ちの方もいらっしゃいますが、車椅子ユーザーで日常的に運転をされる方はよくいらっしゃいます。

    近くに相談できる方やお店があれば気軽に相談してみていただきたいですし、もし見つからなければ、遠方であっても当店にご相談ください。お話を伺ったうえで、近くの会社を紹介することも可能です。最初から諦めてしまうのではなく、まずは試してみていただけたらと思います。

    あと、介護福祉車両のご相談に限らずですが、ご相談は文章のみよりも対面のほうがより進みやすいかと思います。何かご要望がある場合は事前にお伝えされるのがおすすめです。

    例えば車の修理相談の場合、当店は部品を持ち込みいただくのもOKです。ただ「この部品だと動かなかった場合の補償は販売メーカーに直接お問い合わせいただくことになります」など、留意事項をしっかりお伝えしてご了承いただいています。

    なかには持ち込みの部品は対応できないというお店もありますので、「この部品を買おうと思っている」など、事前にご相談されると良いのではないでしょうか。技術者もやはり人間ですので、お互いに納得のうえで進められるといいですね。

    ― 本日はご紹介ありがとうございました。

    オートガレージ江下
    佐賀県佐賀市に自社工場を持つカーライフサポート店。整備や鈑金塗装、販売などだけでなく、キャンピングカーや介護福祉車両の修理・改造も手がける。キャンピングカーの改造・修理は外装・内装・特殊装備のいずれも相談可能。

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