近年、自転車事故において、加害者が高額な賠償金を請求されるケースが発生しています。
そこで被害者および加害者の経済的な負担軽減のために、義務化が進められているのが自転車保険への加入。
2022年4月の時点で、東京都をはじめ30都府県1政令市で自転車保険の加入が義務化され、9の道県が加入を努力義務としています。
自転車保険とは、自転車を運転していて事故にあった場合に、加入者ご自身のケガなどの損害に対する補償や、事故の相手方への損害賠償に備える補償を受けられる保険です。
保険に入ることで、万が一の場合に備えることはできますが、まずは事故にあわないに越したことはありません。
そこで今回は正しい自転車の交通ルールを解説します。
安全に自転車を利用するために、改めて自転車の交通ルールを確認してみましょう。
- 目次
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1.自転車事故の現状
交通事故全体に占める自転車関与事故の割合
警察庁によると、令和3年中の自転車関連事故は69,694件。つまり、平均で200件弱の自転車事故が1日に起きていることになります。前年は67,673件でしたので、前年に比べて約2,000件増加しているという結果に。また、全交通事故に占める自転車関連事故の割合は22.8%。これは平成28年以降、増加傾向にあります。
割合として多いのは自転車対自動車
平成29年〜令和3年の自転車関連の死亡・重症事故で多いのは、「自転車対自動車」。これが、全体の約76%を占めます。続いて、「自転車単独」が約7%、「対二輪車」が約6%、「自転車相互」が約5%、「対歩行者」が約4%です。このことからも、圧倒的に自動車との事故が多いことがわかります。
自転車事故は出会いがしら衝突が多い
この「自転車対自動車」の事故のうち、最も多いのは出会いがしら衝突で、全体の約半数を占めています。なお、令和2年における出会いがしら衝突での死亡・重症者数は2,966人ですが、そのうち2,482人が交差点内の事故によるもの。見通しが悪く、信号のない交差点などで多く発生しています。こうした出会いがしらによる事故では、自転車側にも安全不確認や一時不停止など、約8割の法令違反がありました。
自転車対歩行者の事故の発生場所は歩道が多い
続いて「自転車対歩行者」の事故ケースを見ていきましょう。死者・重傷者数が最も多かった事故発生場所は、歩道です。これが全体の約4割を占めます。「自転車対歩行者」の事故においても、前方不注意、安全不確認など、自転車側の法令違反が見られました。
2.自転車が走るのは「車道?歩道?」
皆さん、自転車はルール上、車道と歩道、どちらを通らなくてはならないか知っていますか?
正解は、車道です。自転車は原則車道を通るよう道路交通法で定められており、歩道を通ることができるのは一部の例外のみとなります(詳しくは後述します)。
誰でも気軽に乗れるために忘れられがちですが、自転車は「軽車両」にあたります。これは自転車がクルマの一種であるということです。そのため、道路交通法を遵守しなければなりません。
道路交通法では、自転車のうち、大きさ等の一定の基準に適合するものを「普通自転車」と定義しています。一般的に利用されている自転車は、ほとんどがこの普通自転車にあたります(この記事で「自転車」というときは、普通自転車のことを指します)。
また、自転車を押して歩いている場合は歩行者とみなされることも覚えておきましょう。
3.正しい自転車の交通ルール
それでは、「自転車安全利用五則」(平成19年7月10日交通対策本部決定より)に沿って、自転車の交通ルールを確認していきましょう。
自転車は、車道が原則、歩道は例外
車道と歩道が区別されている場合、原則として自転車は車道を通行します。自転車道がある場合は、自転車道を通行しましょう。また、歩行者を妨げることがなければ、道路の左側部分に設けられた路側帯を通行することもできます。
ただし、例外として下記の1〜3に該当する場合は、歩道通行が認められます。
なお、3でさしている「通行が著しく危険な場合」とは、例えば道路工事や路上駐車が連続していて車道が通れないときや、車が多いうえに道が狭いため、車との接触の可能性があるときなどです。
車道は左側を通行
自転車は車道では左側を通行します。右側を通行(逆走)している自転車を見かけることもありますが、危険なのでやめましょう。
歩道は歩行者優先で、車道寄りを徐行
前述の通り、「普通自転車歩道通行可」の標識がついている区間や自転車の運転者が高齢者や児童・幼児などであれば、歩道を通行することが認められています。
歩道を通行するときには、歩道の中央から車道寄りの部分を徐行します。普通自転車通行指定部分がある場合は、指定部分を通行します。歩行者が優先のため、歩行者の通行を妨げる場合は、一時停止しなければなりません。
安全ルールを守る
飲酒運転や二人乗り、横に並んで走ることは禁止となっています。夜間はライトをつけましょう。交差点では信号を守り、必要に応じ一時停止し安全確認を行います。
これらを守らなかった場合は、罰金が科されることもあります。
例)
禁止行為 | 罰則 |
---|---|
飲酒運転 | 5年以下の懲役又は100万円以下の罰金 |
二人乗り(同乗者を座席以外に乗車させた場合) | 2万円以下の罰金又は科料 |
並進(道路標識等で認められている場合を除く) | 2万円以下の罰金又は科料 |
夜間の無灯火 | 5万円以下の罰金 |
信号に従わなかった場合 | 3ヵ月以下の懲役又は5万円以下の罰金 |
標識等で一時停止すべき場所でしなかった場合 | 3ヵ月以下の懲役又は5万円以下の罰金 |
子どもはヘルメットを着用
幼児(6歳未満)や児童(6歳以上13歳未満)が自転車を運転するときや、幼児用座席に幼児を乗せるとき、保護者は幼児・児童にヘルメットをかぶらせるようにします。
警察庁が発表している「令和3年中の交通事故の発生状況」によると、自転車乗用中の死亡事故において、約6割が頭部の損傷によるものでした。また、ヘルメットを着用していない場合は、着用している場合に比べて致死率は約2.2倍も高くなるといわれています。幼児・児童を自転車に乗せる際には、必ずヘルメットをかぶせるようにしてください。また、道路交通法の一部が改正※されたことにより、子どもだけではなく全ての自転車乗用者に対してヘルメットの着用が努力義務化されました。万が一のことを考えて大人もヘルメットを着用するようにしましょう。
※令和4年4月27日公布、1年以内に施行。
- 出典
- 警察庁「平成28年中の交通事故の発生状況」、平成29年3月
自転車の標識をきちんと守ろう
自転車は「軽車両」に該当するため、車と同様に標識を守る必要があります。例えば、「止まれ」という一時停止の標識を見つけたら、停止線の手前で必ず一時停止します。停止線がない場合は、標識の手前で一時停止するようにしましょう。そのほかにも「一方通行」の標識があれば、車と同じように、矢印の方向にのみ進みます。標識を守らずに通行した場合、他の通行者の妨害につながるだけではなく、車と出会いがしらに衝突してしまうリスクも高まります。
ただし、「自転車を除く」「軽車両を除く」といった補助標識がある場合は規制対象には入りません。しかしそれ以外の場合は必ず、標識に従って通行するようにしましょう。
4.交差点における自転車の交通ルール
環状交差点安全進行
環状交差点(ラウンドアバウト)とは、車両の通行する部分が円形状になった交差点です。
環状交差点内では、進行する他の車両の進行を妨害してはいけません。また、環状交差点に入るとき・通行するときは徐行しなければならず、車両または歩行者に注意し、安全に進行しなければいけません。
交差点安全進行
交差点を通行する場合において、交差点やその付近に自転車横断帯があるときは、自転車横断帯を通行しなければいけません。また、横断歩道に自転車横断帯が併設されている場合には、横断歩道を渡ってはいけません。
さらに、信号機がない交差点等において、交差道路が優先道路であるときや狭い道路から広い道路等に出るときは、交差道路等を通行する他の車両の進行を妨害しないようにするとともに、徐行しなければいけません。
加えて、交差点内を通行するときは、状況に応じて他の車や歩行者に注意してできる限り安全な速度と方法で進行しなければいけません。
(自転車横断帯の一例)
交差点優先車
交差点で右折するときに他の車両の進行を妨害してはいけません。
これらの交通ルールを踏まえつつ、警視庁の「自転車の正しい乗り方」を参考にしながら、自転車で交差点を通行するときのルールを解説します。
直進
車両通行帯のない車道(片側一車線道路等)を通行する場合は、車道の左側端に寄って進みましょう。車両通行帯が設けられている場合(片側二車線以上の道路等)は、第一通行帯(一番左の通行帯)を通行しましょう。なお、第一通行帯が「左折車通行帯」、第二通行帯が「直進車通行帯」である交差点を直進する場合でも、自転車はあくまで第一通行帯を通らなければなりませんので、この場合には「左折車通行帯」を直進することとなります。
左折
あらかじめ交差点の前からできる限り道路の左側端に寄り、できる限り道路の左側端に沿って徐行しながら左折しなければなりません。
右折
交差点での右折は「二段階右折」です。
あらかじめ交差点の前からできる限り道路の左側端に寄り、交差点の側端に沿って徐行しながら二段階で右折しなければなりません。具体的には、道路の左側端に寄った状態で交差点に入り、交差点の向こう側までまっすぐに進み、交差点の角で右に方向を変え、右方向に進むこととなります。
以上が、自転車で交差点を安全に通行するための交通ルールです。
すべてのルールをご存知だったでしょうか?
もし「初めて知った」というルールがあった人は、改めて、自転車の交通ルールを学び直してみてはいかがでしょうか。
5.スマホの「ながら運転」は絶対にダメ!
近年自動車や自転車の事故原因としてたびたび挙げられているのが、スマホを見ながらの「ながら運転」です。
自動車の「ながら運転」に関しては、2019年12月に改正道路交通法が施行され、厳罰化。自転車に関しても安全運転の義務について定めた道路交通法第70条に違反するほか、全国の公安委員会規則で規定されています。
例えば東京都では、道路交通法の規定に基づき定められた東京都道路交通規則において、次のような遵守事項が定められています。
「自転車を運転するときは、携帯電話用装置を手で保持して通話し、又は画像表示用装置に表示された画像を注視しないこと」「傘を差し、物を担ぎ、物を持つ等視野を妨げ、又は安定を失うおそれのある方法で...自転車を運転しないこと」「高音でカーラジオ等を聞き、又はイヤホーン等を使用してラジオを聞く等安全な運転に必要な交通に関する音又は声が聞こえないような状態で車両等を運転しないこと」
- 出典
- 東京都道路交通規則
他の自治体でも、東京都とほぼ同様に、「ながら運転」について規定されています。
6.自転車交通ルールを守らなかった時の罰則は?
もし、自転車の交通ルールを守らず、危険な違反行為を繰り返した場合には、罰則が与えられます。危険な違反行為とは、信号無視や通行禁止違反、酒酔い運転、指定場所一時不停止などです。これらの違反行為で3年以内に2回以上検挙された場合は、都道府県公安委員会により「自転車運転者講習」の受講が命じられます。命令を受けたら、3ヶ月以内に講習を受講しましょう。もし、命令を無視し受講しなかった場合には、5万円以下の罰金が科されます。
7.監修コメント
交通事故の加害者になると、民事上の損害賠償責任も負うことになります。それは自転車事故であっても変わりません。
近年、自転車事故の高額賠償事例が増えています。中高校生が起こした自転車事故に対して、数千万円に上る損害賠償金の支払いが命じられた事例もあります。
そうしたリスクから家族を守ってくれるのが自転車保険です。自動車保険などに付帯できる個人賠償責任特約でも、家族が自転車事故の加害者になってしまった際のリスクに備えることができます。
自転車保険への加入が義務付けられている自治体はもちろん、努力義務となっている自治体にお住まいの方も、自動車保険への個人賠償責任特約の付帯を検討してみてはいかがでしょうか。