スピード違反や一時停止違反などの交通違反を起こし、違反点数が一定以上を超えると、免許取消しや免許停止などの処分を受けます。これらの処分のことを「行政処分」といいます。当記事では、運転免許にかかわる行政処分の概要や種類、点数制度、不服申し立てなどについて解説します。
- 目次
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1.行政処分とは?
行政処分の定義
行政処分とは、広義の意味合いでは、行政機関が法令に基づいて行う処分をさします。
運転免許にかかわる行政処分とは、公安委員会が道路交通法や道路交通法施行令に基づいて、運転者に行う処分のこと。運転免許の行政処分は基本的に点数制度の上に成り立っており、一定期間の累積点数と処分回数をもとに、免許取消しや免許停止などの処分が決定されます。
行政処分の目的
交通違反における行政処分の目的は、「道路交通上の危険を防ぎ、安全を確保すること」です。なお、交通違反をすると、行政処分のほかに刑事処分も受けることがありますが、両者は目的が異なります。行政処分は、将来起こりうる危険を未然に防ぐためのものですが、刑事処分は「過去の違反行為に対する制裁」のために行われます。
行政処分の例
運転免許にかかわる最も一般的な行政処分は、免許の取消しや免許の停止です。免許取消しは、運転免許の効力が失われるもの。免許の停止は一定期間、運転免許の効力が停止される処分です。
このほか、運転免許の拒否・保留という処分もあります。過去に交通事故や違反を起こした方や行政処分を受けずに運転免許を失効した方が、運転免許を取得する時に、運転免許の交付を拒否もしくは保留にする処分です。国際運転免許証等を持っている人が交通違反や交通事故を起こした場合、一定期間、運転を禁止する運転禁止処分もあります。
上記の免許取消処分、免許拒否処分、運転禁止処分を受けた場合、再度運転免許を取得しなければ車の運転はできません。
2.行政処分の基準になる点数制度について
前章でも少し触れましたが、交通違反における行政処分は基本的に点数制度の上に成り立っています(※)。運転者が起こした交通事故や交通違反に対して違反点数を加算していき、過去3年間の累積点数と行政処分回数(前歴という)をもとに、処分内容が決められます。行政処分の基準になっている点数には、以下の2種類があります。
※例外として、飲酒運転や無免許運転をそそのかした行為、道路外での人身事故は点数制度にはよりません。
基礎点数
基礎点数とは、個々の違反行為に対してつけられる点数のこと。違反行為には、信号無視や携帯電話使用等が該当する一般違反行為と、酒酔い運転や運転障害等の悪質・危険な違反行為が該当する特定違反行為の2つがあります。
点数は、危険性の度合いに応じて定められており、一般違反行為は1〜25点、特定違反行為は35〜62点。特定違反行為の違反点数は最低でも35点ですから、過去の処分回数にかかわらず、一発で免許取消処分となります。以下に、代表的な一般違反行為と特定違反行為の点数を紹介します。
違反行為の種類 | 点数 | ||
---|---|---|---|
一般違反行為 | 速度超過 | 20km未満 | 1 |
20km以上 25km未満 |
2 | ||
25km以上 30km未満 |
3 | ||
高速道等30km以上 40km未満 |
3 | ||
高速道等40km以上 50km未満 |
6 | ||
一般道30km以上 50km未満 |
6 | ||
50km以上 | 12 | ||
携帯電話使用等 | 保持 | 3 | |
交通の危険 | 6 | ||
指定場所一時不停止等 | 2 | ||
通行禁止違反 | 2 | ||
信号無視 | 2 | ||
シートベルト装着義務違反 | 1 | ||
特定違反行為 | 救護義務違反 | 35 | |
麻薬等運転 | 35 | ||
酒酔い運転 | 35 | ||
危険運転致傷 | 45〜55 | ||
危険運転致死 | 62 | ||
運転障害等 | 45〜55 | ||
運転殺人等 | 62 |
付加点数
交通事故を起こした際、上記の基礎点数に加えられるのが付加点数です。付加点数の基準となるのは被害の程度と運転者の不注意の程度。後者については、交通事故が専ら(もっぱら)運転者の不注意によって起きたものなのか、そうでないのかによっても点数が異なります。
被害の程度 | 運転者の不注意の程度 | 点数 | |
---|---|---|---|
死亡事故 | 違反者の不注意 | 20 | |
その他 | 13 | ||
重傷事故 | 治療期間3ヶ月以上、または後遺障害 | 違反者の不注意 | 13 |
その他 | 9 | ||
治療期間30日以上3ヶ月未満 | 違反者の不注意 | 9 | |
その他 | 6 | ||
軽傷事故 | 治療期間15日以上30日未満 | 違反者の不注意 | 6 |
その他 | 4 | ||
治療期間15日未満 | 違反者の不注意 | 3 | |
その他 | 2 | ||
建造物損壊 | 違反者の不注意 | 3 | |
その他 | 2 | ||
措置義務違反 物損(当て逃げ) | 5 |
3.点数制度には、無事故・無違反の運転者に対する特例もある
点数制度は、交通違反や交通事故の点数と処分回数を累積していく制度と説明しました。しかし一定期間、無事故・無違反の場合は、違反点数と前歴の計算に特例が適用されます。特例が適用される3つのケースは以下の通りです。
条件 | 特例 | |
---|---|---|
ケース1 | 無事故・無違反の期間が1年以上 | その期間より前の違反行為の点数は累積しない |
ケース2 | 無事故・無違反の期間が2年以上の人が、3点以下の軽微な違反行為をした後、3ヶ月以上無事故・無違反 | その軽微な違反行為の点数は累積しない |
ケース3 |
|
「前歴なし」とみなす |
※上記でいう「期間」とはすべて、免許を受けていた期間をさします。
4.免許証の取消し・停止処分に対して不服がある場合には?
免許取消しなどの行政処分に納得がいかない場合、不服を申し立てることも可能です。違反者には、処分に対して意見や不服などを申し立てることのできる機会が最大3回あります。1回目は、行政処分が決定する前の「意見の聴取」。2回目と3回目は、行政処分が決定した後の「審査請求」と「行政訴訟」です。
まずは、交通違反や交通事故を起こし、行政処分が決定するまでの大まかな流れを紹介します。
行政処分が決定するまでの流れ
- 交通違反や交通事故の発生
- 違反や事故の内容により、点数が付与される
- 免許取消や免許停止処分(90日以上)がされる場合、公安委員会による意見の聴取が行われる
- 行政処分の決定
「意見の聴取」で不服を主張する
上述の通り、公安委員会が免許取消しや90日以上の免許停止処分をしようとする場合、「意見の聴取」を行わなければなりません。意見の聴取とは、処分が公正かつ適正に行われることを保障する目的で設けられるもの。意見の聴取では、違反者は意見を述べ、自身に有利な証拠を提出することができます。
意見の聴取が行われる際には、事前に公安委員会から「意見の聴取通知書」が届きます。この通知書に処分の理由や開催日などが記載されていますから、当日までに意見をまとめたり、証拠を集めたりします。なお意見の聴取では、代理人を立てて意見を主張することもできます。
審査請求を行う
意見の聴取が終わり、行政処分が決定した後でも、不服を訴える機会はあります。その場合、処分を知った日の翌日から3ヶ月以内、もしくは処分があった日の翌日から1年以内であれば審査請求を行うことができます。処分を知らなかった場合であっても、処分があった日の翌日から起算して1年を過ぎた場合は審査請求を行えなくなってしまうので注意しましょう。
審査請求をする際には、まず「審査請求書」を提出します。その後、処分の内容と理由が記載された「弁明書」が届きます。その内容に反論がある場合には「反論書」を作成し、提出することも可能です。手続きが終わると「審理手続終結通知書」が届き、その後に裁決が行われます。
行政訴訟を提起する
上記の2つは公安委員会に対して不服を訴えるものでしたが、行政訴訟は中立な立場である裁判所に対して、違法であることを法的な根拠をもって訴えるもの。行政訴訟を行う場合は、処分もしくは裁決があったことを知った日から6ヶ月以内、または処分もしくは裁決があった日から1年以内に提起をする必要があります。
5.免許取消処分後、免許の再取得には取消処分者講習の受講が必要
免許取消処分を受けたとしても、「取消処分者講習」を受講すれば、運転免許を再取得することができます。なお、「取消処分者講習」の受講対象者は、免許取消処分、免許拒否処分、6ヶ月以上の運転禁止処分を受けた方、運転免許が失効したため取消処分を受けなかった方です。
以下に、運転免許を再取得するまでの大まかな流れを紹介します。
- 免許取消等の行政処分
- 仮免許を取得する
※普通免許・準中型免許を取得する場合の
- 取消処分者講習を予約する
- 取消処分者講習を2日間(計13時間)受講する
※受講後、「取消処分者講習終了証明書」が交付される
- 欠格期間(運転免許を取得できない期間)満了後、運転免許の試験に合格する
※飲酒が理由で免許取消処分を受けた場合は、「飲酒取消講習」を受講します。
※講習時には、講習手数料として30,550円が必要です。
取消処分者講習は予約制です。飛び込みで行っても受講はできませんので、注意しましょう。また、取消処分者講習は、欠格期間中でも受講することができます。しかし、「取消処分者講習終了証明書」は有効期限が1年で、受講後1年以内に運転免許試験に合格する必要がありますので、それを考慮したうえで計画を立てましょう。
6.監修コメント
意見の聴取などを経て行われた行政処分の取消しを求める方法は、行政不服審査法に基づく審査請求と行政事件訴訟法に基づく行政訴訟の2つがあります。行政不服審査法は簡易迅速かつ公正な手続きのもとで行政機関に不服申立てができることを定めており、行政事件訴訟法は行政事件に関する裁判の手続きについて規定しています。
行政機関によるスピーディな審査を望むのか、裁判所の判断を求めるのか。行政処分に納得がいかない場合は、置かれた状況や目的に合わせて審査請求か行政訴訟かを選ぶことができます。審査請求の裁決があった後に、行政訴訟を提起することもできます。