下り坂などを走行中にブレーキが効かなくなる、「べーパーロック現象」を知っていますか?一つ間違えば大事故にも繋がる危険な現象です。
今回は、このベーパーロック現象の仕組みや原因、また未然に防ぐための対策を解説していきます。
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ベーパーロック現象とは
「ベーパーロック現象」とは、ブレーキ時の摩擦熱により「気泡」が生じ、それが原因でブレーキが効きにくくなる現象です。最悪の場合、ブレーキがまったく効かなくなり大事故に繋がる恐れもあるため、注意が必要です。
ベーパーロック現象を知る上で、まずは油圧ブレーキについて簡単に理解する必要があります。
油圧ブレーキとは、ブレーキペダルを踏むことで発生するブレーキフルード(ブレーキ用の油)の油圧を利用したブレーキのことです。
油圧ブレーキの大まかな仕組み
- 運転席にあるフットブレーキのペダルを踏む
- ペダルを踏んだ力は、ブレーキ配管内を満たしているブレーキフルード(ブレーキ用の油)を通じて圧力となり伝わる
- 圧力がブレーキパッド(タイヤと連動して回転しているブレーキディスクを挟む制動装置)に伝わり、タイヤの回転を止める
ここで注目したいのが、力を伝えている「ブレーキフルード」という液体です。ブレーキフルードはブレーキ専用の油であり、本来であればペダルを踏んだ力を正しく伝えてくれます。
しかし、ブレーキパッド(摩擦材がついた金属板)の摩擦熱によりブレーキフルード(ブレーキ用の油)が沸騰し、ブレーキ配管内に気泡ができてしまうと、力が充分に伝わらなくなります。気泡は言わば空気の固まりであり、空気には力を圧縮し吸収してしまう性質があるためです。
起因はブレーキフルードの沸騰ですが、最終的にはそれによって生じる気泡がベーパーロック現象を発生させています。
ベーパーロック現象は、油圧ブレーキを採用している車において半ば避けられない現象でもあり、クルマを運転する人誰しもが注意する必要があります。
ベーパーロック現象が発生する原因
ベーパーロック現象の根本的な原因はブレーキフルードの沸騰ですが、そもそもブレーキフルードは、そう簡単に沸騰するものではありません。
では、ブレーキフルードはどのような原因で沸騰してしまうのでしょうか。
原因1 「過度なブレーキ操作」で沸騰が起こる
フットブレーキを踏むと、ブレーキパッドがタイヤに押し付けられることで「摩擦熱」が生じ、その摩擦熱はブレーキパッドからブレーキフルードまで伝わります。この熱によりブレーキフルードが沸点を越えると、沸騰し気泡が生じます。
とはいえブレーキフルードは油ですので、沸点は200℃前後。水よりも高く、日常的なブレーキ操作では沸騰するまで熱せられることはあまりありません。しかし、あまりに過度なブレーキ操作を行えば、その可能性は否定できません。
過度なブレーキ操作の例としては、次のようなケースが挙げられます。
過度なブレーキ操作の例
- フットブレーキを強く踏む(特に高い速度からの急激なブレーキング)
- フットブレーキを短時間に頻繁に踏む
- フットブレーキを長く踏み続ける など
ベーパーロック現象を防ぐには、このようなブレーキ操作を控え、摩擦熱の発生を抑えることが大切です。
豆知識:下り坂のほうがベーパーロック現象が起きやすい
一般的に、ベーパーロック現象が起こりやすいのは「下り坂でのブレーキ」です。長い下り坂、急な峠道などで、ベーパーロック現象が起きた時のための「待避所」が設けられているのを見たことがある方もいらっしゃるかと思います。
険しい山の下り坂ではブレーキを頻繁かつ長く使いますので、普通に運転していても摩擦熱が高まりやすい状態となります。こうした場所では、ドライバーの誰もがベーパーロック現象に見舞われる可能性があるのです。
原因2 ブレーキフルードが「水分」を吸収すると沸騰しやすい
ブレーキフルードの油が水分を吸収すると、より沸騰しやすくなり、ベーパーロック現象も起こりやすくなります。
実は、ブレーキ管内には時間と共に自然に水分が溜まってしまいます。その原因としては、以下が挙げられます。
- 走行中と停止中での温度差による水滴
- 大気の湿気に含まれる水分
- ブレーキフルード交換時などに人為的作業ミスで入り込んだ水分
ブレーキフルードは「吸湿性」があり、ブレーキ管内に溜まった水分を吸収してしまいます。そして、水分を吸収したブレーキフルードはその分沸点が下がり、本来よりも低い温度で沸騰してしまうのです。
長期間交換していないブレーキフルードですと、多くの水分を吸収し沸点が下がり切っている恐れがあります。後述の「対策方法2 ブレーキフルードを定期的に交換する」の対策を参考にしてみましょう。
原因3 ブレーキ管内への空気の混入
空気そのものがブレーキ管内に入り込むケースもあります。入り込んだ空気は、沸騰で発生する気泡と同じようにブレーキを踏んだ力を吸収してしまいますので、ベーパーロック現象と似たような状況に陥ります。
空気が入り込む原因としては、以下が挙げられます。
- ブレーキフルード交換時やブレーキオーバーホール時における人為的作業ミス
- エア抜き作業の失敗
- ブレーキ管内のエアを抜く「ブリーダー」が緩んでいる など
このように、作業時のミスでブレーキ管内に空気が入り込んでしまうケースがほとんどです。ブレーキ系統の点検・交換・修理などを行った後は、ブレーキの効きが甘くなっていないか確かめておきましょう(停止中にフットブレーキを踏み、ペダルが固くならずに奥まで踏めてしまう様な場合は、空気が混入してしまった恐れがあります)。
未然に防ぐために有効な対策方法
ベーパーロック現象は、対策を施すことである程度未然に防ぐことができます。
対策方法1 エンジンブレーキを使う
下り坂のような摩擦熱が起きやすい状況では、フットブレーキの多用は避け「エンジンブレーキ」で速度を落とすことが一つの対策となります。エンジンブレーキであれば摩擦熱を発生させずに速度を落とせますので、ベーパーロック現象の予防に繋がります。
エンジンブレーキの掛け方は、次の通りです。
※下記は一例です。車種ごとに使用方法を事前に確認するようにしてください。
AT車のエンジンブレーキの掛け方
- ATのシフトレバーを使い、D(ドライブ)→2(セカンド)→L(ロー)の順に段階的にギアを落とす
- シフトレバーについているOD(オーバードライブ)のボタンを押しOFFにする(OD OFFにすると最上段のギアが使われなくなり、エンジンブレーキが掛かりやすくなる)
※OD(オーバードライブ)のボタンがついていない車種もあります。
MT車のエンジンブレーキの掛け方
- アクセルから足を離す(MT車はアクセルを抜けば自然とエンジンブレーキが掛かる)
- MT操作で段階的にギアを落とす
エンジンブレーキの注意点
- エンジンブレーキは多用するとエンジンを痛めることがあります。
- 一気に低いギアに入れるとよりエンジンを痛めます。また変速時に「ガクン」とショックも起こるため運転操作における危険も伴います。ギアは落ち着いて段階的に落としましょう。
対策方法2 ブレーキフルードを定期的に交換する
ブレーキフルードは時間と共に水分を吸収し、ベーパーロック現象の原因となります。また、たとえ水分を吸収していなかったとしても、ブレーキフルードは消耗品であり、劣化するとブレーキ系統の錆や故障の原因となります。
そのため、定期的にブレーキフルードを交換することも対策となります。
ブレーキフルードの交換目安は、おおむね2~3年に1度となりますが、環境によって劣化が早まることもあります。エンジンルーム内のリザーバータンク内を確認することでブレーキフルードの劣化具合を確認することができます。ブレーキフルードの色劣化に応じて透明→黄色→茶色→こげ茶色の順に変色していくので、変色を確認したら早めに交換しておくのが良いでしょう。
対策方法3 ブレーキ各部の点検も怠らない
ブレーキフルードの他にも、ブレーキパッド・ブレーキローター・キャリパーなどさまざまな部品が組み合わされ、ブレーキ全体を形作っています。これら各部に劣化や故障があると、必要以上に摩擦熱が生じてしまう恐れがあります。またベーパーロック現象以外のトラブルも起きかねません。
したがって、ブレーキ各部、ブレーキ全体の点検も定期的に行っておくことをおすすめします。特にブレーキの効きが悪くなった場合や、ブレーキペダルの押し加減に違和感がある場合は、一度ディーラーやカー用品店などで点検をするようにしましょう。
フェード現象との違い
ベーパーロック現象とは別に「フェード現象」と呼ばれるものがあります。フェード現象は「ブレーキパッド」が異常加熱し、ブレーキが利かなくなる現象です。
ブレーキパッドは、タイヤに押し付けタイヤの動きを止めている部品です。300℃程度までの耐熱力を持ちますが、過度なブレーキ操作などで300℃を越える高温が発生した場合、ブレーキパッドのゴム部分がガス化(気化)し、そのガスがタイヤとの間に入り込んで、摩擦力を奪います。これがフェード現象です。
フェード現象もベーパーロック現象も根本的な原因は同じで、過度なブレーキ操作によって引き起こされます。下り坂などでの過度なブレーキ操作によっては、フェード現象・ベーパーロック現象の両方が発生する恐れもあります。
ブレーキ操作だけでなく、日々のメンテナンスもしっかりと行う
このように、ベーパーロック現象はドライバーの誰にでも起こりうる現象です。一つ間違えば大事故にもなりますので、ブレーキの役割を理解して適切なブレーキングを心掛けましょう。
また、ブレーキフルード(ブレーキ用の油)やブレーキ各部の劣化も原因の一つとなりますので、日頃のメンテナンスや点検も怠らないようにしましょう。