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垣根を超えた共創の場をつくり、モビリティの未来を支える。「自動車技術会」にインタビュー

更新

2022/12/07

公開

2022/12/07

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公益社団法人自動車技術会は、自動車技術に関する調査・研究、集会事業や人材育成事業を展開する団体です。

今回は同会常務理事の東雄一(あずま ゆういち)さんと、「傷害予測による自動通報システムの高度化と普遍化に関する検討委員会」に所属する木内透(きうち とおる)さんに、自動車技術会の活動と一般ドライバーに関わりの深いアルゴリズムについてお話を伺いました。

目次

    1.モビリティ技術の発展に貢献する学術団体「自動車技術会」

    ― 本日はよろしくお願いします。最初に、公益社団法人自動車技術会さまの事業内容について教えてください。

    東常務理事(以下、東):本会は「飛躍的な新型自動車の創案」を通して「国民の生活を豊かにする」という理念と目的意識をもった有志によって、1947年(昭和22年)2月に設立されました。戦後間もない当時の日本産業界を考えると、これは非常に高い理念と目的意識でした。

    主な事業は「研究成果を講演発表する場の開催」「自動車技術に係る将来技術の調査研究」「自動車関連規格の制定・改正」「次世代の技術者育成」「出版物の刊行」などがあります。

    当会の大きな特徴は、日本の自動車産業に携わる様々な企業の技術者や、学術研究者たちが、自動車業界全体の大きな課題解決のために、組織を超え、ともに切磋琢磨できる場づくり、環境づくりをしている点です。

    自動車業界は現在、カーボンニュートラルや自動運転技術の実装など対応が急がれる課題が多くあり、100年に一度の大変革期といわれています。そのため、各自動車メーカーや部品メーカーなど、自動車に携わるすべての人々が知恵を出し合い、一致団結してこれらの課題に取り組むことが重要です。

    こうした背景もあり、当会では技術者たちの情報発信・交流機会の創出、次世代を担う優秀な人材の育成に力を入れております。

    ― 情報発信・交流の場づくりや次世代の技術者育成にはどのような取り組みがあるのでしょうか。

    東:年に2回行われる「人とくるまのテクノロジー展」は、自動車業界における技術交流会として、日本最大規模で開催しています。

    各メーカーが自社技術や商品の情報を発信し、互いの方向性をキャッチアップできる貴重な機会であり、自動車産業界の活性化につながる取り組みとして非常に評価されております。

    人材育成事業の代表的なものとしては小学生向けの「キッズエンジニア」、中高生向けの「モビリティデザインコンテスト」、大学生・専門学校生向けの「学生フォーミュラ日本大会」があります。

    また、これからの自動車業界に不可欠であるIT系やシステム開発系の学生にアプローチをして、自動車産業への興味をもっと高めてもらうことにも力を注いでいます。

    大人向けの育成活動としては、自動車技術の基礎を習得するための「自動車工学基礎講座」など技術者育成講座や、将来の自動車技術者を育てるための「自動運転AIチャレンジ」というコンペティションも開催しています。

    2.産官学連携によって生まれた救急通報システム「D-Call Net」

    ― 自動車技術会が行っている標準化活動で自動車事故の際にドクターヘリと連動する救急通報システムに関するものがあると伺いました。これについて教えてください。

    木内さん(以下、木内):私の本所属は「交通事故総合分析センター(ITARDA)」ですが、自動車技術会が主宰するD-Call Net アルゴリズム標準化活動WGに主査として参加しています。

    他のメンバーは各自動車メーカーの方や大学研究者、自動車に関する中立的な試験研究機関の方などです。自動車技術会を中心に産官学で連携し、救急通報システム「D-Call Net」の開発を行っています。

    「D-Call Net」は、交通事故を起こした自動車が自動でドクターヘリの出動を要請する「先進事故自動通報システム(AACN)」です。

    D-Call Netを搭載した車が事故を起こすと、エアバッグECU内のEDR(イベントデータレコーダ)に記録された、衝突の方向や衝突の厳しさ、シートベルトの着用有無、多重衝突の有無などがすぐにD-Call Netサーバーに送られ、死亡重症確率推定アルゴリズムによって、搭乗者の死亡重症度を推定します。

    この数値を消防やドクターヘリ基地病院に知らせることで、迅速な救命措置開始につなげるというものです。

    ― 死亡重症度の他にはどのような情報が送信されるのでしょうか。

    木内:現場周辺の地図とGPS情報、車種や車体の色、そして通報を受けてからの経過時間なども消防本部とドクターヘリの基地病院に送られます。

    それらを見たドクターたちが、同じ情報を見ている消防本部とランデブーポイントを確認するなど連携しながら、いち早く現場に向かいます。

    過去の実験では、従来38分かかっていた治療開始が17分間短縮されました。一刻も早く治療を開始することで、交通事故による死亡・重症を防ぐ可能性を高めているといえます。

    現在、日本国内では高級車からファミリーカーまで、約300万台の車にD-Call Netが搭載されているといわれています。

    3.アルゴリズムの国際標準化を目指して

    ― 自動車技術会はD-Call Netとどのような関わりをもっているのですか?

    木内:先ほどご紹介したように、車から届いた事故時の情報を接続機関がD-Call Netサーバーに反映させると、アルゴリズムによって死亡重症度の推定値が算出されます。

    自動車技術会では標準化事業の一環として、この傷害推定アルゴリズムの日本産業規格(JIS)を制定し、国際標準化(ISO)提案計画にも関わりました。

    各国の専門家が集まるISO会議の中で、技術と運用が進んでいる日本がリーダー役となり、交通事故現場で1分1秒でも早く救命できるように、国際標準の技術仕様書づくりを推進しています。

    このようにJIS化に加えてISO化を達成することで、日本の優れた技術が国内のみならず世界で使われれば、日本の自動車産業界はより成長していくことでしょう。

    こうした活動ができるのは、産官学の技術者・研究者たちが1つのチームとなって高精度のアルゴリズム開発を進められる「場」が自動車技術会にあるからだと思います。

    現在は搭乗者だけでなく、歩行者事故にも対応したD-Call Netシステムも開発中です。さらには、通信型ドライブレコーダーによるD-Call Netも使われ始めようとしていますので、自動通報システムは今後も日進月歩で発展していくと考えています。

    ― ドライバーの方へお伝えしたいことはありますでしょうか。

    木内:ドクターヘリで現場に向かうドクターたちの成長を描いたテレビドラマをご存じの方は多いのではないかと思います。

    D-Call Netはそのドクターたちと事故現場をつなぐ重要な技術であり、救命救急を支える存在です。こうした技術の精度を上げ、皆さまの安全を守るためにも、万が一事故の当事者となられた際には、事故調査の意義もご理解いただけたらと思います。

    4.自動車技術会のこれからの展望

    ― モビリティをめぐる共創について、今後の展望をお聞かせください。

    東:人やモノが、自由で安全・安心な移動によって豊かな生活を送ることを可能とし、地球と人にやさしいモビリティ社会の実現に向け、技術者や研究者が組織の垣根を越え一丸となって課題を解決する「場」を提供し続け、社会に貢献していきたいと考えています。

    ― 本日はありがとうございました。

    公益社団法人 自動車技術会
    「人と知をつなぎ、モビリティの未来を支える」というミッションを掲げ、自動車に係わる科学技術の調査・研究・成果発表の場を提供するとともに、人材育成や規格作成および普及、国際交流などを行う公益社団法人。関連機関や団体と活発に提携・交流し、モビリティ技術の向上に貢献している。

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